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Dr.イワサキ

Dr.イワサキプロフィール
岩崎輝雄(いわさき・てるお)

1933年島根県松江市生まれ。
協会監事・学術部会代表/北海道大学 健康・予防医学 教育学博士/健康評論家。
温泉健康法として「クアハウス」、森の健康法として「森林浴」を発案、企画・運営指導に携わる。その間、一貫して厚生省、農水省、環境省の補完事業を担当。レジオネラ菌対策、シックハウス対策にも係わっている。
著書に「温泉と健康」(厚生科学研究所)、「クアハウスの健康学」(総合ユニコム社)、「森林の健康学」(日本森林技術協会)などがある。

Dr.イワサキの今月の水のお話し
協会のご意見番「Dr.イワサキ」こと岩ア教授が、ちょっと気になること、不思議に思うこと、愉快な出来事などなど、毎月楽しい内容をお話ししていきます。

Vol.28 ◆バイオフィルムは口の中にも
     −平素のブラッシングこそ最高の防護策・恵比須繁之博士説に注目−

 微生物が粘り強く生き抜くのには、薄い膜の間、すなわち“バイオフィルム”を宿にして隠れ、薬剤の攻撃から逃れる方法がある。そして、折を見て外に出てバイ菌等をばらまくという。
 私たちはこのバイオフィルムの生態メカニズムに着目し、水回りの生活空間における病原菌防護対策に血眼になっている。
 ビルの屋上にある冷却塔や温泉入浴施設から発生し、年間数十名の死者を出すレジオネラ属菌感染症もこのバイオフィルムが介在している。
 現在の最も効果的な駆除方法は消毒薬散布ではなく、実は地味ではあるが、ヌルヌルが主として出る冷却塔床面や温泉入浴場の床タイルや岩風呂の床石を丁寧にブラッシングすることである。目地を歯間ブラシ様の道具で細やかにヌル状のバイオフィルムを除去することが、その効果を徹底する上で基本と認識されている。
 ところが最近、“目からうろこ”のニュースが飛び込んできた。驚いたことにヒトの口の中の虫歯と歯周病に感染する病床が“バイオフィルム”であることを突き止め、“オーラルバイオフィルム”と命名した報告が『U7 10月号学士会会報』で発表された。
 口腔内の500種もの細菌が共存するためにフィルム状の棲み家を作り、単体では発現しない抗菌剤や免疫細胞に抵抗性を獲得しているという。
 間違っては困るが、海洋工学や環境工学の世界でならバイオフィルムの名前も許せる。がしかし、口の中にまさかバイオフィルムあり?としたのが、最近、大阪大学副学長に着任したその人、恵比須繁之教授だ。
 筆者は口の中の菌叢については良く知らないが、口の中のあのヌルがバイオフィルムであり、その生態の構図はレジオネラ属菌とそっくりであるのにも驚かされる。
 「歯ブラシの威力」が第一と指摘され、まず予防には物理的方法を説く。
 同様にレジオネラ属菌駆除には、やはり歯間ブラシ様の道具で徹底した洗浄を期待したい。
 ところがだ。筆者がチョクチョクお世話になるご近所の歯医者さんを思い浮かべ、「虫歯予防に歯ブラシを!」を徹底した末に患者さんが居なくなれば、歯ブラシ販売業に商売替えとなるのか?と歯科医さんの将来の姿を想像するのも愉快だが、やはり不見識だとお叱りを受けそうだから止めにしておく。

 それにしても、これだけ寒い日が続くと、週末を過ごす富士山麓の別邸での(農)作業には、奥歯にやたらと力が入って歯が傷みそうだ。また歯医者さんに通うかな?ではまた。

(1202-028)