Vol.16◆まず自然に学ぼう
-毒キノコ対策に近道は危険-
猛暑の夏が過ぎたこの秋、毒キノコ事件が急増している。
今年の山キノコの出来は此処にきて豊作だ。同時に毒キノコはそれ以上に多い。
自然最高の味“山キノコ”を愛し、富士山麓で200本の栽培用“ほだ木”でキノコを楽しむ筆者にとって、この事件は他人事でない。
毒キノコ被害の報道で共通しているのは、多くの山キノコ愛好者に山や自然の正しい知識を基本としたキノコの知識が皆無に近いことだ。
ただ注意や警告を声高に周囲から叫んでも本当の対策とは無縁の世界である現実を知ってほしい。
本当の対策は本場欧州人の行動と厳格な規律に学ぼう。ドイツ人、イギリス人を初め全欧州人が山キノコの愛好者と言えよう。マリネ、炒め物、フライ等、秋のたまらない味覚であり王様だ。
特にドイツ人の子供たちが最高に尊敬するのは森を守る“森林官”で、彼等は胞子など微生物の名前を熟知した毒キノコ判別達人に憧れるのだ。この被害の恐ろしさを知り尽くす人達に、森林官でなくてもどの町にも“キノコ博士”たる資格を持つ者がおり、いつでも無料で相談に応じるシステムがある。市民に尊敬される奉仕活動だ。特に毒キノコ判別の前提には徹底した基礎知識と胞子識別方法と名称の知識が必要だ。それも微生物関連のラテン語だ。生活が関係するから地元の尊敬の的となる。行政レベルの判別資格試験もある。
欧州のキノコ狩りには、山の案内地図、概ね1回1家族分(1キロ以下)が手に入れる量であること、根こそぎでなく翌年度のために少し残すこと、胞子を自然に落とすべくビニール袋でなく網状の袋に収穫キノコを入れること、切り取るには専門の切れのよいキノコナイフを使用する等の心得が必要だ。つまり“食べるからには名前から覚えよう”の心構えには毒キノコの入る余地はない。それでも事件は皆無ではないのだ。
そして毒キノコを簡単に見分ける方法とした、原色もの、なめて痺れるもの、匂って鼻につく臭い等とした俗説には誤りが多い。被害の症状も個人差、体調・年齢差があり有毒性も複雑で、被害を避けるには安全なものを選んで食することが必要だ。
テングタケ、クサウラベニタケ、ツキヨタケ、クサウラベニタケの毒キノコ位は図鑑で一見を薦めるが、“毒キノコ識別対策には近道はない”ことを肝に銘じておいて戴きたい。
それにしても、天麩羅にした山キノコで味わうビール一杯のひと時こそ、秋の最高の味覚そのものと小生は信じて疑わない。
(1011-016)