Vol.9◆コスト削減で急増する企業の地下水利用と衛生管理
戦後の混乱期から人々がやっと手に入れたもののうち、豊かさの実感の一つが冷房のある職場環境だった。夏の盛りに全身アセモに悩まされた苦痛からの解放感を今も鮮明に思い出す。だが冷房のため地下水の過剰揚水で地盤沈下騒動に直結した苦い経験がる。
東京都の最近のデータに、東京都の水道消費量は日量約630万㎥でそのうち地下水は3%と報じている。同じ地下水需要で今度は企業の経営コスト削減を契機として、自前の自家用深井戸造成が食品工場、コンビニ、高齢者医療施設等の水需要の多い事業所で相次いでいると最近のテレビ番組は特集していた。
つまり、企業サイドの過去の冷房需要は周辺の地盤沈下を起し、現在では企業の経営コスト削減から自治体の水道事業収支悪化をひきおこしていると言う。
水道料の経費節減を深井戸業者はPRするがそこに衛生管理の言及は殆どない。豊富な水資源があっても、これを衛生処理する自治体の浄水経費負担等は矛盾点が放置されたままの状態だ。
問題は事業所サイドに見えてくる地下水衛生管理意識の低さと井戸施設開発業者の安易な衛生管理技術に問題がある。
かつて、毎日排水・毎日清掃を条件に施設開発したはずの温泉入浴施設なども、設備技術の向上を理由に1週間や1ヶ月は循環設備で十分とした当時の設備業界の技術の過信が今日のLegionella
属菌の進化菌を増殖させた原因の一つともなった。この事実は現場指導の立場にいた私の反省点でもある。
複合汚染が進む都市部で地下水衛生管理上、トリクロロエチレンやジオキサンなど有害物質の検出情報が相次ぐ中、多摩地区の地下水利用は日量最大40万㎥を維持し、地盤沈下観測も合わせ厳密に調査している。現下の民間企業の本動向を放置すれば、地下水衛生管理維持面も、自治体水道事業収支上も問題が大きすぎる。
節水の徹底、景気低迷の消費量減の相反する要素で翻弄している水道事業に「安価で、安心、安全の水確保」にだけは企業も民間も十分な配慮が欲しい。
企業のコスト削減対象だけのための地下水活用は筋違いもはなはだしい。
今月は堅い話になってしまったが、それはともかく、春になれば水温み、魚や草花の新しい命を感じる時だ。小生も花見などして春を堪能しようかと思う今日この頃である。
ではまた。
(1004-009)