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Dr.イワサキ

Dr.イワサキプロフィール
岩崎輝雄(いわさき・てるお)

1933年島根県松江市生まれ。協会監事・学術部会代表幹事/北海道大学 健康・予防医学 教育学博士/健康評論家。
温泉健康法として「クアハウス」、森の健康法として「森林浴」を発案、企画・運営指導に携わる。その間、一貫して厚生省、農水省、環境省の補完事業を担当。レジオネラ菌対策、シックハウス対策にも係わっている。
著書に「温泉と健康」(厚生科学研究所)、「クアハウスの健康学」(総合ユニコム社)、「森林の健康学」(日本森林技術協会)などがある。

Dr.イワサキの今月の水のお話し
協会のご意見番「Dr.イワサキ」こと岩﨑教授が、ちょっと気になること、不思議に思うこと、愉快な出来事などなど、毎月楽しい内容をお話ししていきます。

Vol.17◆殺処分基準は情感でなく科学的に
    -熊のヒト危害に“保護か射殺か”-

 動物愛護の精神は人間社会が成熟する度合いに応じて尊重される傾向にあることは誰しも異論はない。ただ、小生の富士山麓にある研究所周辺で多発する野生動物の人家への危害行動のケースに「人間とそれに危害を加える野生生物の棲み分け」に新たな評価基準の必要性を痛感している。
 現地山梨県では今年の熊の民家付近への出没が125件で昨年の3倍。2007年から3年間で68頭が捕獲され、放獣は3頭のみ。今年は昨年同期より多い26頭の捕獲で9頭が放獣。全国の動向も同じ傾向にある。放獣件数が多いのは動物愛護団体とか一般の苦情によると各自治体は嘆く。
すでに「殺処分か放獣かの処置判断基準を自治体任せではムリ」の現場の声には訴求力が強く感じられるのは当然だ。
 自身も獣医系大学の研究に関わる立場から見てみると、本問題には熊の行動学から科学的判断をすることが大切で、動物愛護の情感のみの苦情で判断基準を左右してはならない。
 熊の習性は①飢餓状態時の食物確保欲求行動は鮮烈で、人里で安易に食にあり付けると知覚すると、再度出没は常習すること。②成獣にはスプレー、銃声で“人里は危険”と認識させても危険だと学習する知見データはない。③奥山放獣では地元の森林業、山菜取りの生活空間行動に注意を払うこと。④出没時や捕獲放獣後識別標識で確認し熊の正確な生態行動範囲を規定する。等が指摘されている。
 よって、人への危害に及んだ熊は程度の差こそあれ殺処分、再度人里に出没した熊は殺処分、人里田畑周辺に出没したものは威嚇銃で人の集落である認識を徹底させることだ。他の野生動物より人への危害が大きい熊の適正管理と動物愛護の情感は次元が異なると認識する。
 確かに山岳の熊の食糧不足原因は人間にあるという意見や抗議は、現場対策に支障をきたしているという話をよく聞く。気持ちは判らない訳でもないが、だからと言って、自治体だけにその処置基準を委ねるのは苛酷であり、対策には関係学会の協力が必要だ。人への危害保護には単純明瞭な駆除処分基準の合意が望ましい。
 それはともかく、いよいよ冬本番。寒い時には小生も熊の冬眠のごとく冬ごもりをしたいと思うのだが、すぐに飽きて動き回るだろうこの性格をなんとかしなければ、と思う今日この頃である。では、また。

(1012-017)