Vol.18◆「病上手に死に下手」の現代解釈は如何に?
「病上手に死に下手」(やまいじょうずにしにべた)とは“よく病気をする人はなかなか死なない”とする諺で、江戸の昔から大衆の間で揶揄(やゆ)された意味深長な云いまわしだ。
肝心のご当人が若い時分から健康に良くないことばかりやり続け、しかも病に無頓着で中年を過ぎた今も丈夫なりと嘯く(うそぶく)御仁にはこの話は無縁だ。しかし、中年を過ぎた今は生活習慣病に付き合わされているとのハナシの落ちが必ず付いてまわることを忘れてはなるまい。
病気になると周囲に迷惑を掛ける、経済負担がかかるなど病弱であるが故のマイナス理由は様々だが、どうも本音は性格による点が目立つ。
病理学からすると、本来発育発達の時期には頭痛、腹痛、悪寒、鼻水、微熱があっても一晩で治る程度の簡易疾病には一々気にする必要はない筈で、本来の軽度の病の揺さぶり現象にはある適度に体を緊張させる刺激剤としてその抵抗力をつけ免疫力をつける過程でもあるとも考えられる。
筆者は今から27年前、昭和58年当時の厚生省の検討委員で百寿者1400名余の健康状態と生活分析をした折、家族の介護を受ける程度の病を経験した人は結構この諺に該当し、決して病気知らずの健康エリートの健康系図には確認出来なかったという経験がある。
江戸のお人達のこの諺から、長年、女性百寿者の数が男性を上回るのは、女性は男性より自分の健康に結構投資した結果であるという推論も立派に成り立つ。
この諺に、「病に上手は結構だが生きることのみ考え、死ぬことを忘れたのでは??」との痛烈な現代的な冷酷解釈もあることだ。
こんなご時世だからか、最近、学生時代から病弱ながら達者な卒寿(90歳)の友がチョットした転倒をしてから1週間で他界した。悔やみで集まった友人等から、「病上手だが死に方も手際がいいね...」。
「長生きも芸のうち」と歌人吉井勇は言った。今日では長生きに対して少々やっかむ傾向は否定出来ないが、この諺に社会や家庭に負担や面倒を掛けない老人は百寿を堂々生きて欲しいという新解釈を期待したい今日この頃だ。では、また。
(1101-018)