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Dr.イワサキ

Dr.イワサキプロフィール
岩崎輝雄(いわさき・てるお)

1933年島根県松江市生まれ。
協会監事・学術部会代表/北海道大学 健康・予防医学 教育学博士/健康評論家。
温泉健康法として「クアハウス」、森の健康法として「森林浴」を発案、企画・運営指導に携わる。その間、一貫して厚生省、農水省、環境省の補完事業を担当。レジオネラ菌対策、シックハウス対策にも係わっている。
著書に「温泉と健康」(厚生科学研究所)、「クアハウスの健康学」(総合ユニコム社)、「森林の健康学」(日本森林技術協会)などがある。

Dr.イワサキの今月の水のお話し
協会のご意見番「Dr.イワサキ」こと岩ア教授が、ちょっと気になること、不思議に思うこと、愉快な出来事などなど、毎月楽しい内容をお話ししていきます。

Vol.26 ◆レジオネラ症防止対策の根底にある施設の意識の格差
       −適切な知識の習得が利用者の安全を守る−

 当協会が昨年に引き続き、千葉県主催の「レジオネラ属菌防止対策等地区別講習会」の一部を担当し、保健所管轄の会場を行脚している折、不幸にしてまたまたレジオネラ属菌による感染死亡事故が発生した。
 60歳の大阪の男性が水上温泉・綱子(群馬県)の温泉旅館を利用して、レジオネラ属菌に感染し死亡したという。(11月26日に報道)
 入湯日から1週間後に発症、その2日後にレジオネラ属菌感染を医療機関で確認。それより1週間後に死亡。浴槽水から国で定められた基準の1,800倍の菌が検出されたとか。県の調べでは洗浄、換水、ろ過洗浄ともに衛生管理不適正が指摘されている。
 予防しえなかった私どもの立場から痛ましい事件であり胸が痛む。
 事故発生後いつも、直接間接を問わず、関係者が繰り返して再発防止を口にするが、言葉だけでは本当の防止には繋がっていないことも事実だ。
 多くの問題点や切り込めない障壁など、周囲に無用な気配りや遠慮する姿勢が問題を放置し、黙認する事例が余りに多い。その根底にある誰もが意識する“保身”の2文字が遣り切れない思いを後に残した経験は誰にでも存在する。
 それを払拭するようなメリハリの効いた、思い切った発想で、しかも単純明快な発想がその論旨を際立たせている調査結果を紹介しつつ、指摘事例の内容に沿い警鐘を鳴らしたい。
 ここに公衆浴場と旅館ホテル施設管理者に対し、レジオネラ属菌感染防御の実行を促す貴重な調査結果が、千葉県健康福祉部によって「平成23年度レジオネラ属菌防止対策等地区衛生講習会」で報告されている。調査は公衆浴場、旅館ホテル等入浴施設延べ384施設を対象に、平成19年より3年間余に亘り、細菌検査と聞き取りを実施し、検体数は浴槽水810検体であった。
 この調査から読み取れるものは、第一に、「レジオネラ属菌防止対策等地区衛生講習会の出席率(≒無関心)の低さが同菌検出に相関している」という明確な事実であろう。(資料1)
 公衆浴場と旅館ホテルの2つの業種別に、それぞれ平素の衛生管理上の菌検出率とその関心度を前年講習会の出席率で表すという、極めて適格な調査結果を発表し、注意を喚起している点に注目した。

  

 過去より現在までのレジオネラ属菌感染事故を業種別に見ると、旅館ホテルの死亡事故発生件数は公衆浴場より多いが、問題は感染防止を目的とする講習会への関心度が歴然とした格差を生じさせていることである。
 旅館ホテルが陽性検出率45.6%と公衆浴場の23.3%より20ポイント以上も多い。講習会の出席率を関心度に置き換えると、旅館ホテル31.4%と公衆浴場の50.4%に対して低いことが結果的に不成績をマークし事故数を増幅しているとも受け取れる。
 つまり、レジオネラ属菌防止対策を実効たらしめるには、関連の講習会による関心度の昂揚が必須で、衛生管理の必要性を理解させるべきとの指摘ができる。
 立場を代えて、今後、指導・啓蒙する私どもの立場からは、いかにして講習会に施設の関係者を出席させて、納得させて、衛生管理の大切さを理解させるかが、本課題の解決に導く手段であることを示唆している調査と見たい。
 失敗談、成功談こもごも討議をまじえて、出席者のためになる魅力ある講習会の内容にすべく、今少し知恵と検討が必要であることも併せて示唆していると思える。私ども公益法人たる民間の立場と、データから読み取るクールで冷静な事実判断も交え、研究者サイドからも併せ支援したいものだ。

 第二に、平成19年度より4年間の浴槽水から検出されたレジオネラ属菌の年度別推移(資料2)は年度に関係なく、約20%からレジオネラ属菌が検出され、同属菌発生の除去の徹底は図っていても実態は減るよりむしろ漸増の兆しすら感じられるデータであり、より細菌が生きやすい環境を作り出している現状が、細菌数の増殖⇒生物膜の形成とアメーバの増殖をもたらしているということである。

  
 
 第三は、消毒防御の国の基準の幅の見直しであろう。
 資料3は遊離残留塩素濃度対応の殺菌性を示すデータである。適正範囲の管理であっても約20%が陽性検出していることが窺える。これまで30余年の筆者の駆除経験からも適正範囲の管理には同様の傾向にあるとみてよい。この理由としては対象水が原水・井戸水を対象とし、それに入浴者数による汚濁度を鑑み、0.2mg/L〜0.4mg/Lに保ち1.0mg/Lを超えないようにするとした現下の同濃度基準の限定的な狭隘な適用には無理があることが考えられる。

  

 加えて、温泉水にいたってはpH度や鉄やマンガンが含有する鉄泉や炭酸水素塩泉・マグネシウム・硫酸塩泉など泉質に影響を与えない配慮が必要であるが、真水だけでの対応の発想であることから、結果的に適格性を欠く結果となっていると思える。

 以上が千葉県の調査から読み取れることであるが、その他にも、現下で特効性のある薬剤の登場が当分期待できないこともあり、徹底すべきは、対象の温湯が真水でも温泉水でもレジオネラ属菌の発生防止の基本はブラッシングであり、施設の日常の衛生管理に手間と労力がかかることから、日頃の衛生管理に対する意識が菌の検出率に比例する傾向があることを指摘したい。

 それにしても、今回は堅い話ばかりになって息が詰まりそうだが、こんな時には、ひと息ついて、一杯飲んで(こっちがメインかな?)、冗談の一つも交えて、仲間と語り合いながら、冬の夜長を楽しみたいものだ。では、また。  

(1112-026)