Vol.22 ◆−森林のリグニン効果やバイオアベイラビリティの未知放射線防護策に学者の見識を−
今こそ福島原発放射線量防護に“森林地帯”の評価と活用を
去る6月4日(土)に開催された国内放射線第一線の研究家による第19回放射線防護研究会(理事長・加藤和明・高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)にて、研究者が持ち寄る東電福島原発事故情報の次の緊急課題は、大気汚染の広がりや汚染規模等に絞られ、放射線防護実務に詳しい専門家集団の熱心な討論が繰り広げられた。
そこで現下の内外生命医科学学会討議の流れから予見すると、次に放射線災害で注目すべきは森林地帯の役割と評価だろう。若干専門表現の多い論調とお断りした上で以下論述する。
まず、放射線濃度汚染分布を、“Speedie・汚染分布予測図”の実測図で示された結果では、飯館村奥地100qまで長細の楕円形で、その区分線は地形、林繁(リンパン)状態、風向き、丘陵等、気象条件に沿う同心円形とは無縁な形状に国民は息を呑んだ。
筆者らは20余年前、森林の持つ特異機能の一つに保健的活用の役割を提唱し、一部のマスコミ、行政、科学者4名で、“森林浴推進国民運動”を展開した。時事用語でその名を認められる課程で、医科学に森林の持つ意義と奥の深さを痛感したものだ。
だからこそ、現下の放射線防護に森林の持つ役割を産官学で注目させ、データ不足や緊急研究課題を引き出し、論議のキッカケや動機付けを期待し支援したいのだ。
私見を交え森林地帯の放射線防護の役割と活用範囲等、海外事例も参考に提案する。
@環境データに放射性セシウム・137Csを用いる。広大な森林汚染把握に最適。
A森林生態系から総排出量を物理的崩壊速度で観察することで、137Csの半減期の30年間を考慮し、長期的汚染に経年変化トレンドが可能。
Bチェルノブイリ事故発生直後の隣接国の森林除染効果は地表で低く、スローだが規模の大きさから確かな環境包容力の自然特性を示唆した報告が多い。
C雨水による湿性沈降は数百qまで伸びるが、森林地帯はある種のフィルター効果、137Csの捕獲効果は高いとの計算上の指摘もある。緩慢な樹木の沈降垂直分布が作用。
D樹冠による森林の重要な役割評価は汚染物質の一時的貯蔵庫。多年生樹木が最適か?
E事故発生後の森林への汚染物質の沈降が大量の137Cs汚染があっても、以後の沈降の配分レベルは初期の沈降位置を越えないとした森林地層形成の実証報告の指摘あり。
F広葉樹は太陽光の直射光に、針葉樹は散光に対応(四手井綱英)。同捕獲効果に関与。
G森林内地層表面での汚染度は隣接の畑、草原より低い。しかし、森林内草木、ベリー果実を食した動物の肉に汚染度が高く、森林周辺での乳牛、猪等の汚染度は低いことから、森林は貯蔵する機能が大との指摘からも原発汚染災害を優しく受け入れる空間。
以上は137Cs汚染に対する森林の役割の評価研究をチェルノブイリ事故(ソ連)やスリーマイル島(米国)事故発生後の内外の研究報告事例も参考にして紹介した。
しかし、東日本の広域圏の原発災害地域はわが国有数の深い落葉広葉樹林地帯であることから、環境に柔軟に対応可能な自然効用は無限だ。四手井らの先駆的提案は多い。
地球生誕から46億年の進化の中で、光合成を行う微生物、つまり光エネルギーを使って、二酸化炭素を同化し有機物を生産する単細胞生物が誕生した。やがてこの単細胞生物は、その宿主細胞と共生することで、陸上植物の祖先となる葉緑体(クロロプラスト)を誕生させた。さらに、一群の植物は光への競争に打ち勝つためにより高く、大きく成長し、百年〜5百年の平均樹齢まで光と付き合っている。京大森林生態学研究陣も「リグニン」という堅牢な組織や気管を作る有機物で固められた幹や枝が進化し、その過程で樹木生態を秘密創造するとも指摘している。
この光とは太陽光であり、宇宙からの各種放射線に関与し137Csを吸収する等、森林に直接的遮断とか緩和効果について刮目すべき研究報告例は存在しないが、薬学や林学で論じるバイオアベイラビリティ(Bioavailability・生物学的利用能)やリグニン効果等、学際領域からも分析・研究の限りを尽くし、林学専門家中心に支援し、諸科学者の奮起と緊急的な先駆的提言を期待したいのだ。
(1107-022)