■30年間の回顧と将来に向けて 会長 大熊久之
2025年4月
2025年、公益社団法人全国水利用設備環境衛生協会(水利協)は設立30周年を迎える年となり、謹んでご挨拶を申し上げます。
設立時より多くの皆様に当協会の活動に格別のご理解とご協力を賜り心より感謝を申し上げます。
1995年(平成7年)任意団体として厚生省生活衛生局に設立意志の報告をさせて頂き、2007年(平成19年)主管を厚生労働省とされる社団法人の設立の許可を頂き2013年(平成25年)公益法人改革により主管を内閣府とする公益社団法人の認定を頂き本年(令和7年)30周年を迎えることとなりました。
この30年間は世界的にITからAIへと情報や産業のグローバル化が進み経済も1900年代より続く経済の低迷期からの脱却を図る中、コンプライアンス(法令遵守)、アカウンタビリティ(説明責任)、ガバナンス(管理体制)など社会を律する言葉が安定した経済再生の標語となって来ました。
環境面では各国による温暖化防止の取り組みの中で、天変地異により農作物や漁業などに影響をもたらしています。そのような中で衛生面では、エボラ出血熱、HIV感染、SARSなど新興感染症と共に世界をパンデミックに引き込み、私たちの日常生活で予防衛生の重要性を最も認識させられた新型コロナウィルス感染症「COVID―19」が発生しました。
この新型コロナ感染症は世界経済へ長期に渡る影響と共に、生活様式、職場環境また人種、文化を問わず、人々の慣習をも変えてしまいました。
これは私たち人間が、いかに自然災害に対して無力で、細菌、ウィルスなどに対して予防、防止が脆弱であるかを学ばされ、防災や衛生管理がいかに大切かを余儀なくされました。
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国内では、平成から令和への改元の中、自然災害による阪神・淡路大地震(1995年)や東日本大震災(2011年)などと他にも多くの災害が発生しました。
国の指導と地域社会の連携がいかに多くの人の生活を助け、また防災や予防が多くの人命に係るかを改めて認識しました。
2020年より発生した新型コロナ感染症は、日本も例外なく多くの規制が生まれ日常の経済活動への大きな影響が私たちの生活、職場環境の形態が変わるまでとなり、新たなモラル・マナーが求められ様になりました。
この様な社会環境下の中で、私たちは「水を利用する設備機器に係る衛生問題」に取り組みました。
日本の水道水や井水などの飲用水や生活用水は世界でも有数な安心して飲める水です。その「水」は私たちが毎日使用するまで、また快適な日常生活を過ごすために利用されるまでには、多くの設備や施設を経由し私たちの生活や産業に使われています。
水は私たちの生命線(ライフライン)の一つですが、この水を利用する設備機器などを使用する施設や店舗の衛生管理が私たちの日常生活、職場環境における健康管理に繋がっていきます。また、施設や店舗運営の安定的経営を保持する事に於いても水の衛生管理が社会基盤の支えになると考えています。
私たちの活動は、多くある水を利用した感染リスク(クリプトスポリジウム、緑膿菌など)の中でも「レジオネラ属菌」に注視してきました。
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当時(平成7年)はレジオネラ症感染者報告数も100人にも満たないものでしたが、今に至る期間に24時間風呂の社会問題、大学病院での給湯器を原因とする乳幼児の感染事故、宮崎県の日向市の集団感染、また、高齢者施設、フェリー等船舶やガーデニングなど、近年では福岡県の老舗旅館の事例など多くの事故、事件が発生し2023年時点では同報告数が2271人となりました。
それに伴い、対象とされる施設(ホテル・旅館、温浴施設、スポーツ施設、社会福祉施設、商業施設など)や水利用設備機器(水循環設備、冷却塔設備、加湿器など)も増えて来ました。
また施設の合理化、多目的化また、水利用設備機器の機能、性能の向上や薬剤の開発が進み衛生教育や衛生管理などにも多様な対応・対策方法が求められる様になりまた。
しかしながらレジオネラ属菌の抑制や感染予防には、この30年間において、日頃の衛生管理の励行に勝るものはありませんでした。
施設の大型化や合理化により設備機器を過信して、日常の衛生管理の重要な部分を見落とし、薬剤もより強い物を求め耐性菌の発生などが起きる様になってきています。
私たちの活動は設立当初より、バランスの取れた衛生管理(知識と清掃技能)を提唱しています。優れた設備機器や効果のある薬剤と適切な日常の衛生管理により、効果のある予防対策をすることでレジオネラ属菌の発生の抑制に繋がります。
細菌・ウィルスは完全に絶滅することはできません。私たちの日常生活や社会環境では、適切な対応・対策で共存しなくてはなりません。
この30年間で学んだ「衛生の重要性と危機管理」の意識が冷めない様に、私たちは次世代に繋げなければなりません。
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これからも私たちは、自治体、保健所との連携により「水を利用する施設、設備の安全と利用者の健康被害の防止」を啓発してまいります。
また「水利用設備環境衛生士」ならび
「水利用施設衛生管理適合証」「水利用店舗施設適合証」による知識、技能の普及により安心、安全な生活空間、職場環境作りに寄与させて頂きます。
さらに、自治体、保健所により開催される講習会、セミナーなどへの協力させて頂く中では、地域の社会環境にあつた講演として参加される方々に理解を頂ける内容を心がけていきます。
そして、これから日本経済の一翼をになう「観光立国」の経済の安定は、今後、「おもてなし」同様、「清潔な日本」が新たな魅力と付加価値になります。
まだまだ、水利用設備が周辺環境に様々な影響を及ぼすことでしょう。私たちは、引き続きこれらの問題に取り組み国民の健康の安全と安心な社会作りに尽力して参ります。
皆様のご支援、ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。