Vol.48 ◆文学賞等の“夫婦受賞者”にもっと国民の関心を◆
お笑い芸人の又吉直樹が書いた小説『火花』が芥川賞を受賞し、お笑いタレントが初めて受賞したことからも注目度が高く、発行部数が200万冊を超えたとも言われている。受賞の話題がこれほどまでに盛り上がることは文学界にとって喜ばしいことだろう。
ところで、ほぼ同時期に人気の高い文学賞を共に手にした珍しい作家夫婦がいることをご存じだろうか?
世間一般での文学的な評価は別として、天下の意義ある賞を夫婦双方が受賞しているにもかかわらず、一般報道機関により正しく伝達されず、また評価の機会を無くし、無関心のような気配を生んでいたことが気になる。
問題発生は、第135回芥川賞(2006年上半期)の選考会で伊藤たかみさん(当時35歳)の『八月の路上に捨てる』(文学界6月号)が、芥川賞に選ばれたときのことだ。
伊藤さんの4歳年上の妻(その後、離婚)角田光代さんはその前年、第132回直木賞(2005年下半期)を受賞した作家であり、この国民的関心の高い賞を夫婦で受賞したのだから、初めての「芥川賞・直木賞受賞夫婦」として、もっと話題になっても良い筈だった。
妻の角田さんは、かつて3回続けて芥川賞候補になり、直木賞は2回目の候補で射止めた経歴の持ち主で、こちら方が少々苦労もされていたようだ。ご主人の受賞会見場に祝福に現れた角田さんのコメントも素晴らしいのだ。
「芥川賞はとても大きな賞なので、同じ作家として良かったし、うれしい。受賞作はこれから読みます。」と話したことは、関係者には注目されてはいたが、一般報道機関での報道は皆無に近かった。
そこには多くの人に周知されていた夫婦の不思議な経緯があったのだ。
実は夫婦の姓の呼び方に若干問題が秘められていた。著名な夫婦受賞であっても、姓(名字)が同一ならまだしも他人同然な“角田”“伊藤”では混乱も多かろう。
近年の女性の地位向上は、夫婦の姓(名字)表示にも変化をもたらし、男女平等の精神が定着しつつある。
だが、どうも今回のケースは何となく“報道機関の無関心の傾向”の存在があると感じるのは、私だけが気にしている社会事象なのだろうか、静かに熟慮の日々である。
最後に、広範囲で高度な学術・文芸の研究と表彰制度の歴史がある欧州の国々では、同じ分野であろうとなかろうと受賞時期は違っていても、夫婦で名誉ある賞を受賞したケースには学術・行政のルートで、各々の姓(名字)入りで祝賀することを大切にしている風土があることをここでお伝えしておく。
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