Vol.40 ◆世界一恵まれた山脈・山彙(さんい)の自然風景は日本の誇り
四面を海でめぐらし佳景絶勝の海岸に囲まれ、縦横に走る火山系により形作られた多くの山脈・山彙(さんい)から生まれた河川、湖沼、渓谷、滝などのおかげで、多彩な動植物と四季とりどりの景観を享受し体感出来るのが、世界に誇る日本の自然風景だ。
その景観の特殊性は、海岸沿線で描かれる多彩で個性的な山脈による変化と調和のとれた山脈で形成されている。
孤立した個性的な山々が集まっている“山彙(さんい)”という表現を私は心底好んで使用している。
明治から昭和の時代における日本の自然とか日本人の自然鑑賞について、私が注目する志賀重昂(『日本風景論』ほか)、芳賀矢一(『国民性十論』ほか)と長谷川如是閑(『日本的性格』ほか)の著書には、その論議に世代を超えた感銘が残存しているのは不思議である。
少々科学的な発想だが、日本の自然の美しいことを力説した志賀重昂、微に入り細に入って日本人が如何に自然を愛する国民であるかを例証した芳賀矢一、そして一つの文明批判の立場で昔から自然鑑賞の能力に欠けていたと指摘する長谷川如是閑の歴代の論争がある。
昭和の世の斉藤正二らの評論家群も志賀・芳賀は旧いオーソドックス理論であり、長谷川はラディカルな新しい見方の代表とも評している。
自然認識は数多くの見方があって結構である。文学歴史評価には当然な流れだ。
一方、日本人がなぜ季節の推移に敏感だったかについて、日本人の色彩感覚の論争もある。 日本最古の歴史書とされる『古事記』では白、黒、青、赤の4つの色彩は認めても、黄、緑、褐、茶、などの色名は認められていない。日本最古の和歌集とされる『万葉集』の時代になると、黄や緑等の色名が登場する。時代が日本人の感性を豊かにしたのであろう。
日本国土の素晴らしい歴史の一部に触れてきたが、豊かな自然は地形の変容と季節変化で醸し出してきたのであろう。
その中核にあるわが国自然界形成の“ことば”には、富士山を中心とした山々を慈しむ言葉に「山脈・山彙(さんい)」があることにこだわりたい。
それにしても、わが別荘のある富士山麓は既に氷点下となり、春が来るまで訪れることができない。自然とは美しい風景ばかりではなく厳しさを持ち合わせているものと、今更ながらに感じる今日この頃である。では、また。
1412-40