Vol.38 ◆甲州種ブドウの育成歴と日本の歴史の類似性
最近、人間を育てる上で、甲州種ワインにみる“国産ワイン”と“日本ワイン”の違いの理論に恰好のヒントを見つけた。
前者は輸入したブドウ果汁や外国ものワインを混合するのに対し、後者は国内で栽培・収穫の純粋日本製ワインである。そして、日本の固有種とされるブドウが「甲州種」である。
10月10日付けの毎日新聞に、独立行政法人・酒類総合研究所(東広島市)が米国研究所と行った共同調査で、非常に気になる報告が掲載されている。
ブドウはビニフェラ種(ヨーロッパ種)、ラブルスカ種(米国種)、山葡萄の野生種の3種に分類されるが、「甲州種」はDNA鑑定による分析で72%がビニフェラ種で残りが中国の野生ブドウとしている。それも奈良・平安時代から1000年余、日本と中国間を往復した結果、ビニフェラ種と野生種の単なる交雑でなく、さらに中国のビニフェラ種と交配した品種と断定した報告が同研究所から発表されたのは驚きだ。特に、野生種で残ったのは「甲州種」だけとの記述だ。
ちなみに、山陰松江で育った筆者は幼少の折、教師の両親が400坪の庭一杯に甲州ブドウを植えて収穫時には近所の人達を呼んで楽しんだ記憶があり、今も富士ヶ嶺の別荘で甲州ブドウ2本を植えて育てている。
一般的にブドウは乾燥気候を好むことで知られているが、「甲州種」が湿気の強い土地柄に適応できていることは特記すべきで、“野生ブドウの有用な遺伝子を持っていたからではないか”との同研究所の指摘もある。
最後に、海外から持ち込まれたブドウの中で唯一残存している「甲州種」の発展の歴史と日本人の発展の歴史との驚くべき類似性についてひとこと申し上げたい。
意思混交し合う心、調和し融合する心、オットリ感で継続しようとする心は、日本人の三大国民性を創っていると筆者は思う。
その基本精神に加えて、歴史と伝統に満ちた知性を守り育てる風土と日本独特の気候性が日本人の国民性の原点とすることは、甲州ブドウの生育の背景と同質であり、今日までの自然条件への試練・努力の過程があったからこそ、日本人が誇り、心から味わおうとする愛情を共に育ちあげる歴史が組み上げられたのではと痛感している。
それはともかく、「葡萄(ぶどう)うるはし まだ一粒を損(そこな)はず」(虚子)の句を思い出し、ブドウに想いを寄せたい今日この頃である。ではまた。
1410-38