Vol.32 ◆『旬』を食べよう
−四季観にみる食材の尊さと医学的効果を食卓に−
白菜、ほうれん草、ねぎ、大根といえば、冬の『旬』の味。食卓を飾る冬野菜の王者として、日本の八百屋の店頭を賑わす。
同様にニューヨークの街角でも、バターナッツ・スクワッシュ(ひょうたん型のカボチャの一種)やスイートヤム(中身が黄色い芋の一種)等で冬野菜の到来を感じ、こぞって暖かいスープで『旬』の食感に舌鼓を打つ楽しみを求める冬の季節を背にした長い列がある。
しかし、実はこれらの野菜で本当の『旬』を食する感覚は、世界的に薄れる傾向にあることを痛感している。
困ったことに、ハウス栽培や養殖による経済的効率化の追求、年中口にできる食材の無秩序な氾濫が、誰もが美味いと感じる食材需要を引き伸ばし、本来栄養学に求められる「体が求める季節で作られる食材需要成分」を無視し、生命医科学上“ホリスティック・ヘルス”の原点を素通りしているのではと危惧したい。
この視点を最大課題と注視する米国の健康学研究者の動きは流石でもある。
「食する季節で生きる情報のシステム化」が統合栄養学に本来求められ、その理論が実践されるべきである。
「初ものは縁起良し、食べれば75日生き延びられる」の喩えには、栄養学とは無縁の時代に生きてきた先人たちの思いが詰まっている。
●春の食材である苦味のある山菜や葉物には、葉緑素とカロチノイド等、抗酸化力のある色素で新しい細胞を作る力がある。
●夏の食材であるキュウリやトマト、スイカ、茄子等には、暑さから体を冷やす一方で、冷房で冷やされた体を保温するなど、きめの細かい効果がある。
●秋の食材には、夏の暑さからの疲労に対する体調調整作用として、免疫力と抵抗力の両面を補完し補強する効果が期待できる。この季節の『旬』の魚は、ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸等、良質な脂がのったイワシやサバの出番だ。
●冬の食材には、寒気を抑えて体を温めるゴボウやニンジン、レンコン等、根菜の登場だ。快適体調を見る“コンディショニング”理論から考察すると、春・夏・秋の活用相から冬の休養相への移行に血液の流れを促す必要がある。つまり、消化力と代謝力向上の手当に作用する栄養素が冬季の食材にはある。
世界で日本ほど四季の変化が際立っている例は他にない。特徴ある四季の気象変化をもつ日本国土の自然が海・山・川の食材を育み、日本人に健やかな百寿の恩恵を与えている。
日本の『旬』の食材には、北緯20〜45度、海岸線3万4千キロの国土に気温、気圧、降雨、海流や台風の通過点などの他、降り注ぐ日射量(大気イオン被ばく)等、四季の変化に影響される組成要素はそれぞれに違う顔を持つことが考えられる。
一方、日本国土の四季の変化に体が対応するための複雑な体調調整の方法が採られる。
現実には大半の都市生活者は四季の変化を度外視した快適性の美名に隠れ、空調設備で年間平均24℃に保ち、肝心の食材はハウス栽培と養殖の経済優先体制により、本来の四季に生きる私達日本人の活力が阻害され無視される度合いが年々拡大されている。快適性の追求はそこまで“侵略”している。
“科学技術の知恵”がいくら向上したとしても、人間を健やかに守り育てる生命力にみる精緻に満ちた“自然の力”に畏敬の念を持つべきだろう。
それにしても、障子窓に雪景色、淡泊な白身の鱈ちり鍋に真鱈のオスの白子のたっぷり入った煮付けで一杯。なんて想像してしまう、これからの季節は実にいいものだ。ではまた。
(1210-032)